【神鉄文学】続 2か3か「預言者顕る」
神の啓示を預言する者が顕れた。
日々繰り返される神の試練。
日によってドア位置の異なる電車が来る駅の風景。世間体など気にしない風体のサラリーマンは、周囲の目など気にせずぶ然とした態度で「乗車位置で待ってるのにドアがないのは俺のせいちゃうし!」と2ドア整列位置に肩を入れ込んでくる。そうでない人は戸惑いながらも遠慮がちに2ドアの列にに加わる。
神(鉄)は欲と理性の戦いで人類をお試しになります。
となると、3ドアと2ドアの両方にドアがある位置で並べばいいじゃないか。消極的な考え方だが多くの人類はこの選択肢を選ぶ。
おめでとう。あなたは神鉄ツーキニストLv1クリア。今朝もスマホを虚ろな目でみている。
日々の裁き(2ドア車両がくるか3ドア車両がくるか)の前に、まるで神の啓示を知っているかのような動きを取る女性がある時現れた。なんとなく巫女と呼ぶことにしよう。朱色の袴は召しておられない。
その巫女は多くの利用者と同じようにスマホを眺めたまま乗車位置目標に並んでいるのだが、日によっては誰も並ばない3ドアの位置(新参者以外消して並ぼうとしない位置)に立っていることがあった。すると必ず3ドア車両がやってくるのだった。
いろいろと仮説を立てた。
1.神鉄関係者で車両交番を知っている
2.家が線路の近くで折り返してくる電車のドア数を毎朝出かける支度をしながら見ている
3.ガチの鉄オタ
などと数説を立てるものの検証には至らなかったが、巫女はドア位置を毎日正確に当てていった。仮に新参者がうっかり3ドア位置に立っていたとしても、巫女がそこに居なければ必ず2ドア車両なのだった。シャリーン的な鈴は持っていないし、葉のついた木の枝的なものを振り回しているわけでもない。
実は私にも巫女と同じような能力がある。が別に滝行や山奥での修練を積んだわけではない。子供の頃から毎日神鉄を眺めてニヤついていただけだ。うまい棒とメローイエローを持って電車の見える場所でチルアウトするのが放課後の常だった。チルアウトとは言ってなかったけど。他人から見れば苦行にしか見えないのかもしれない。大人になったら通勤時に確実に座れるようにと修行していたわけではない。
この能力は電車が止まる数秒前からだけ能力が発動する。有視界のみでだ。
「巫女vsガチヲタ」
ある日、巫女は3ドア位置に立っていた。私は迷わず巫女の後ろに並んだ。啓示能力を信じ切っていた。
踏切が鳴り始める。
遠くから前照灯の光が見えてくる。
オデコの真ん中に2連の前照灯がついているタイプだ。
手強い・・・こいつはライトだけでドア数確定はできない。
神(鉄)は音を立てながら徐々に近づいてくる。
乗車列に遮られて車番が見えない。
人と人の隙間から一瞬車番見えた。
1104(2ドア車両)
…巫女はしばらくの間引きが良かっただけだった。
…いやもしかするとその能力を悟られないようにわざとハズしたのかもしれない。
そんな日常を繰り返して、今朝。
いつものように2ドア位置から3ドア位置へとフォーメーションチェンジしようと一歩踏み出したところで、同じタイミングで動く男がいた。
その男と一瞬目が合った。少しだけ笑顔で会釈してきた気がした。
静かな朝の静かな駅の変わらぬ日常が少しだけ変わったような気がした朝だった。